これまで日本茶は、「やぶきた」品種をベースに数種類の品種を混合したブレンド茶でした。全国栽培面積の7割以上が「やぶきた」であることからも、必要度の高さが分かります。
しかし「やぶきた」以外にも飲んで美味しい品種は多数あるのです。特に近年開発された新品種には、個性際立つ味わい、香りの茶葉が目立ちます。
以下に紹介する埼玉県茶業研究所が開発した「さやまかおり」「おくはるか」「むさしかおり」「ふくみどり」「ゆめわかば」はその代表格です。いずれも埼玉県内で主に栽培されています。
紅茶の世界では早くからSingle Origin Teaが注目されてきました。アッサム、ダージリン、ネルギリといった名前を聞いたことのある方も多いでしょう。
このところウイスキーやコーヒーの世界でもSingle Origin がもてはやされていることは、純粋な味わいに惹かれるとともに、希少性や個性的であること、また誰が、何時、どのように作った茶なのかがわかる、トレーサビリティーが高いことが、時代の価値観に合致していると言えるでしょう。
めずらしい緑茶のSingle Origin Teaで日本茶の幅広さ、奥深さをお楽しみください。
平岡園の茶園面積は 3.0haで、所沢市の三富新田内に位置しています。落ち葉たい肥を活用した循環型農業に積極的に取組んでおり、2017年には日本農業遺産に登録されました。また、天敵を活用した害虫防除を行っていたり、交信攪乱装置を設置する等して、化学農薬を極力減らす努力を続けています。
「むさしかおり」は ”やぶきた”と”埼27F1-73”を交配し誕生しました。埼玉県茶業研究所が育成して、2001年に登録された品種です。台湾烏龍茶品種「硬枝紅心」の血統が1/4入っているためか、柑橘系のさわやかな香りが印象的です。渋みは少なく、温和なうまみを感じます。
人気が高いわりに、栽培面積が少なく、秋も深まった頃に行くと、SOLD OUTの残念な看板に出会います。
温茶として飲んでいただいても美味しいですが、冷茶にするとおどろくほど美味しくいただけます。
醤油味・塩味の「せんべい」や「おかき」等と良くあいます。
大西園は創業250年、江戸時代から続く伝統ある茶農園です。茶畑は埼玉県入間市金子台地に位置しており、面積は約3haを数えます。
「ごこう」は、京都府茶業研究所で昭和28年に開発された古い品種です。主には玉露や抹茶用に用いられますが、大西園ではそれを煎茶のSingle Origine Teaに仕立てています。うまみが強く、若葉のようなフレッシュな香りが特徴です。
ホット一息つきたいときに、あるいは、食後に飲んでいただくと、満足感が広がります。
大西園主の中島毅さんは、手もみ茶の若き名人で、日本一の称号を8回(2021年時点)受けている、狭山茶を代表する作り手です
製造データ
栽培:製造工場から400mの畑
被覆:なし
摘採:2021年5月12日
蒸し時間:85秒 (深蒸し)
火入れ:28分
大西園製茶工場は創業240年、江戸時代 から続くお茶屋です。埼玉県入間市の金子台に約3haの茶畑を持っています。 若き当主中島毅さんは、手もみ茶日本一を8回受賞するなど、狭山を代表するお茶作りの名手です。「ふくみどり」は埼玉県茶業研究所で育成され、2003年に登録された狭山の奨励品種です。「やぶきた」と23F1-207を交配して誕生しました。
大西園の「ふくみどり」は、摘み取った生葉を6時間ほど天日で干してしおれさせることで、花のような香りと風味を引き出しています。濃厚な飲み口から、飲んだ後に強い満足感を得ることができます。
製造データ
栽培:製造工場から50mの畑
被覆:なし
摘採:2021年5月14日
萎凋:天日干し 6時間
蒸し時間:85秒 (深蒸し)
火入れ:28分
清水園は江戸中期に茶栽培を始めた老舗茶園の一つです。埼玉県入間市藤沢に、3.4haの茶畑をもち、栽培・製造を行っています。新しい茶品種がでると「育ててみたい」「どんな味のお茶になるのか知りたい」と思うそうで、今や10品種の茶樹を栽培しています。清水園の茶畑は茶品種展示場のようです。このような茶に対する強い好奇心が、ますます美味しいお茶をつくり出していくのでしょう。
「おくはるか」は埼玉県茶業研究所が育成し、平成27年(2015年)に登録した新しい品種です。“こく”やうま味が強く、桜の葉のような甘い香りを感じることから、日本国内でも大人気です。桜葉の香りは、クマリンという成分の多さに由来します。
少し高めの温度(90度前後)を使って入れていただくと、桜葉の香りをより強く感じます。
ほっと一息つくときのお茶として、是非、飲んでいただきたいです。レストランなどでは食事前に飲んでいただくと、日本らしさが強調されます。
製造データ
栽培:製造工場から350mの畑
被覆:なし
摘採:2021年5月11日
萎凋:なし
蒸し時間:120秒 (深蒸し)
火入れ:30分
清水園は江戸中期に茶栽培を始めた老舗茶園の一つで埼玉県入間市藤沢に 3.4haの茶畑を保持しています。茶づくりの良 き伝統;手摘みにこだわり、時期になると30人ほどの摘子さん (つみこ;手摘みを行う人) を頼んで、茶摘みを行っています。十八代目の清水知弥さんは、茶栽培・製造のかたわら、ティーバッグ加工も行う働き者です。「ゆめわかば」は埼玉県茶業研究所が2006年に育成をした新しい品種。やぶきた × 埼玉 9号の交配種です。
今年の「ゆめわかば」は、フローラルの香りが強く、印象的なお茶に仕上がりました。渋みと苦味もあって、飲みごたえたっぷりです。お饅頭や羊羹など、甘みの強い和菓子 はもちろんケーキ等にもよく合います。
製造データ
栽培:製造工場から250mの畑
摘採:2021年5月9日
被覆:なし
萎凋:萎凋機で6時間
蒸し時間:100秒 (深蒸し)
乾燥:30
埼玉県入間市の金子台地の一角、根岸に位置する中島園は江戸時代末期に茶づくりを始めた草分け茶園の一つです。絶滅危惧種と言ってもよい「とよか」 を、大切に守り育ててくれています。「とよか」は1976年に狭山茶業研究所 で開発登録された比較的古い品種です。「さやまみどり」×「やぶきた」交配種。玉露用品種として開発されたものの、狭山では玉露生産があまり行われていなかったために姿を消しつつあります。
渋みと苦味、濃厚さを強く感じる飲みごたえたっぷりのお茶です。のど越しにミルクの香りを感じるのが特徴です。温かいお茶として飲んでいただいても良いですし、水出し冷茶にして緑香を楽しんでも素敵です。
製造データ
栽培:製造工場から500mの畑
被覆:なし
採取:2021年5月11日
萎凋:なし
蒸し時間:100秒 (深蒸し)
乾燥:30分
平岡園は埼玉県所沢市下富に約3haの茶 畑をもつ農家です。この地は江戸時代初期 (1694年 ~) に川越藩が新田開発を行った一角で、2017年には日本農業遺産に登録されています。落葉たい肥を活用した 持続可能な循環型農法:「落ち葉農法」に取り組んでいます。「ほくめい」は、1995 年に埼玉県茶業研 究所が登録をした品種です。「さやまみどり」×「埼玉 13 号 ( やぶきた実生 )」の交配種。
うまみ・あまみ・渋み・苦味が、バランスよく引き出されています。入れたときの甘い香りが印象的です。甘いお菓子(チョ コレートやケーキ、和菓子等)と一緒に召し上がっていただくと、渋みと甘みが 相乗効果をもたらします。
製造データ
栽培:製造工場から200mの畑
被覆:4日間
摘採:2021年5月7日
蒸し時間:55秒 (中蒸し)
乾燥:30分
清水園は江戸中期に茶栽培を始めた老舗茶園の一つです。埼玉県入間市藤沢に、3.4haの茶畑を保持しています。古くからこの地で農業を営んできた清水園は、伝統を守りながらも革新的な技術、方法(ティーバッグ製造や萎凋機の導入など)にも積極的に取り組んでいます。
「つゆひかり」は静岡県茶業試験場が育成し平成15年(2003年)に品種登録された新しい品種です。香りが良い”静7132”と、うまみの強い”あさつゆ”という品種を交配して誕生しました。
渋みは少なく、甘みと旨味が強いお茶です。さわやかな若葉の香りと、濃厚な緑色の水色が特徴的です。特に清水園の「つゆひかり」は、6時間、萎凋をかけているので、さらに香りが強調されています。
水出しにした時の美味しさは格別で、旨味と甘みが更に増し、美しく爽やかな味わいに仕上がります。水出し茶として、是非、飲んでいただきたいお茶です。
製造データー
栽培:製造工場から400mの畑
被覆:なし
摘採:2021年5月8日
萎凋:萎凋機で6時間
蒸し;120秒(深蒸し)
乾燥;30分